サンゴの美しさに
魅了されこの道へ

海洋博公園・沖縄美ら海水族館

水族館の飼育員、「サンゴ」の研究員
現在は学習イベントの企画等を担当

美しい海を見晴らす、広大な海洋博公園。その一角に「沖縄美ら海水族館」があります。最初に案内してもらったのは、水族館内の「サンゴの海」水槽。大きな水槽の前で写真撮影の準備中、子どもが永田さんに魚の名前を尋ねました。間髪を入れずに答える様子に目を丸くする取材スタッフ。「サンゴを研究していれば、周りに集まってくる魚のことも当然覚えます」と、永田さんは少し照れながらほほ笑みました。

永田さんが所属する沖縄美ら島財団は「首里城公園」や「沖縄美ら海水族館」「美ら島自然学校」等を管理運営する一般財団法人。亜熱帯性動植物、海洋文化などに関する調査・研究のほか、知識の普及・啓発などを行い、環境保全への寄与や地域社会への貢献を主な目的の一つとして活動しています。永田さんは大学院博士課程前期を修了後、本財団に入職。一年目は「沖縄美ら海水族館」で飼育員を務めました。担当エリアは大学と大学院で研究を深めたサンゴ。サンゴの話になると永田さんの目が、いっそう輝きを増します。「サンゴは植物だと思われがちですが、実は骨と肉がある動物なのです。また、サンゴの体内には褐虫藻と呼ばれる単細胞の藻類が共生しています。サンゴは動物なので酸素を吸収し二酸化炭素を排出します。褐虫藻はその二酸化炭素を吸収して光合成を行い、酸素を放出します」と永田さんは語ります。その語り口には、一つのことに懸命に努力してきた人に共通する、静かな強さと誠実さが感じられました。

世界最大級のスケールを持つ「沖縄美ら海水族館」。
アジアはもとより世界中から観光客が訪れる

永田さんは二年目から、財団の研究機関である「総合研究センター」でサンゴの研究補助員を務め、現在は同センターの普及開発課で自然学習イベントの企画・運営などに携わっています。研究と企画の仕事。求められる能力は異なりますが、「スムーズに取り組めている」と永田さんは言います。「調査・研究に必要な、論理的思考力。企画・運営に必要な、自分の知識や考えを分かりやすく伝える力。それらは学生時代に鍛えましたから」。

サンゴの研究と論文作成の過程で
論理的思考力を身に付ける

少年時代から自然が好きで、高校の頃は理系科目が得意だった永田さん。理学部地球圏科学科に進学し、1、2年次は、物理学、化学、生物学、地学など自然科学の基礎領域を幅広く学びました。3年次の専門分野選択では、学科の中でもフィールドワークが多い「地球科学分野」を選択。4年次の研究室配属の際、海での調査に興味を引かれ、サンゴに関する研究室に所属します。そして永田さんは、調査のために沖縄の西表島や長崎の壱岐・対馬の海に潜り、一面に広がるサンゴの美しさに魅了されました。「サンゴは未知の部分が多く、可能性にあふれた学問領域。どのくらい生きられるのか寿命もはっきりと分からないなど謎が多く、画期的な発見があると従来の概念が大きく覆されることもあります。最近では、これまでのサンゴの分類体系が大きく変わるといった論文が発表されました」。学問としても魅力的なサンゴに、興味がだんだんと深まっていた時、永田さんの人生で転機となる出来事がありました。フィールドワークでサンゴを調査する日々の中、沖縄と長崎で採集したサンゴの一種「キクメイシ」が、同じ大きさでも重さが違うことに気付いたのです。「沖縄の海に生息するキクメイシの方が重い。骨を作る“石灰化”現象が活発であるせいでは、と考えました」。永田さんは日本の亜熱帯域に位置する西表島産と温帯域に位置する長崎産の「キクメイシ」の比較を卒業論文のテーマにし、研究を続けるために大学院へ進学。「水温の違い」等の仮説を立て、データを採取し実証。結果をまとめ、考察を重ねます。「これを繰り返すことで、論理的思考力が身に付きました」と永田さん。また、調査・研究を進める過程で先生方から、発想を広げるために一つの角度にこだわらず「さまざまな見方をする」ことや、考察が偏らないよう「データを客観的に分析する」ことを教えられたと言います。

仮説を立て、
データを採取し実証。
結果をまとめ、考察を重ねる。
これを繰り返すことで、
論理的思考力が身に付く。

永田さんの研究テーマである造礁サンゴ「キクメイシ」
学生時代、調査のために沖縄の西表島や長崎の壱岐・対馬の海に潜り、一面に広がるサンゴの美しさに引かれた

クラブ活動を通して分かりやすく
「伝える力」を養う

学部生時代、学びの傍ら打ち込んだのは体育部会のアメリカンフットボール。高校時代の友人から誘われ2年次の春に入部しました。高校時代は野球をしていて体力には自信がありましたが、アメフトは未経験。しかも遅れてからのスタートでしたが、それを努力で乗り越え、試合で活躍しました。アメフトは各ポジションの専門性が高く、しかも徹底した組織戦。試合では常に変化する状況を瞬時に把握し、選手一丸となって動くことが大切です。特に永田さんのポジションである「タイトエンド」は、オフェンスライン(攻撃陣)とレシーバー(パスをキャッチする役割)の特性を兼ね備えたポジション。ブロックやパスプレーも要求されます。永田さんは、戦術やフォーメーションをスムーズに共有することが求められるチームプレーを通して、自分の考えをチームメイトに分かりやすく「伝える力」を磨きました。さらに、同じポジションの仲間たちと「タイトエンドというポジションを、どう生かせば勝利に結び付けることができるか」を何度も話し合って自分たちの役割と責任に関する共通認識を養い、タイトエンド・プレーヤー全体のレベルアップを図ることができました。

学生最後の試合は一部リーグ昇格を懸けた入れ替え戦。骨折して試合に出場できなかった永田さんはアドバイザーやサポーターなど、自分にできることを考え、その役割に徹することで試合に貢献。その勝利の瞬間を「皆が一つになった、最高の思い出」と、感激を振り返りました。また、文系・理系の各学部から集まった個性豊かな仲間たちと切磋琢磨した経験は、さまざまな部署や人との調整が必要な現在の仕事にも生かされているそうです。

努力を続けながらしなやかに伸びていく

大学院でサンゴの研究をさらに深めた永田さん。修了のころ、沖縄美ら海水族館で飼育員の公募があることを知りました。当時を思い出しながら、永田さんはこう話します。「先生について学会に出席したり、調査で沖縄の海に潜ったりすることも度々でしたから、このような情報が入りやすい状況だったのかもしれませんね」。飼育員として入職し、後にサンゴの担当になったのは、永田さんのサンゴに関する研究の成果と、誠実で努力を惜しまない人柄だからだったのでしょう。

水族館は24時間動いています。生き物たちの様子を常に観察して、微妙な変化も見逃さず迅速に対応するのも飼育員の仕事。その仕事の現場では、学生時代にアメフトで鍛えた体力が大きな武器になりました。

飼育員から、総合研究センターの契約研究補助職員、嘱託職員へ。永田さんは日々の業務と誠実に向き合い、着実にステップアップしていきました。その間も、学部・大学院と一貫して取り組んだサンゴの調査・研究を続け、完成させた論文は査読を経て日本サンゴ礁学会誌に発表。「日本の亜熱帯域と温帯域におけるキクメイシDipsastraea speciosa(Dana,1846)の骨格成長」という論文の筆頭執筆者として永田さんの名が記されています。「この論文が評価されて今の自分があります」と、永田さん。さりげない話しぶりですが、仕事と並行しながらの調査・研究・論文執筆。その大変さは想像に難くありません。「サンゴが好きですから」と爽やかに笑う永田さん。努力することを苦と思わない、しなやかな成長力は、多くの福岡大学卒業生に共通するものです。入職して6年目、永田さんは晴れて正職員となりました。

一方的に
教わるのではなく
自ら気付き、
考え、学ぶ。

それが成長する
第一歩。

仕事と並行しながら調査・研究を続け、完成させた論文を日本サンゴ礁学会に発表した

海の魅力を伝え環境の大切さへの気付きを促していきたい

現在の部署では、海洋生物や沖縄の動植物に関する知識や研究成果を、子どもや一般の方に伝える業務を担当しています。永田さん自身が講師を務めるときには、相手に合わせて表現に工夫を凝らします。「サンゴは植物ではなく骨と肉がある動物で、刺胞という毒針のようなものを持ちます。それを子どもたちに説明するときには“サンゴは刺胞動物”と学術的な用語を使うのではなく、“サンゴはイソギンチャクやクラゲの仲間”と話すと、興味を示してくれます」。このような柔軟で多様な表現方法を見いだすには、「クラブ活動でのチームプレーで鍛えた“伝える力”が大きな支えになっている」と永田さんは言います。また、企画によって講師を探したり、各部署の意見や要望を取りまとめたりするなど多くの人と「調整すること」が必要。このような能力も、多様なチームメイトと切磋琢磨した経験を通して身に付けることができました。「加えて、先生方に学んだ、発想を広げるために一つの角度にこだわらず“さまざまな見方をすること”も、表現の幅を広げるのに役立っています」。財団の施設の一つ「美ら島自然学校」の管理も担当し、小中学校の授業との連携による野外学習指導、親子を対象とした自然学習イベントなどの開催に多忙な毎日です。これらの活動を通して「教えるのではなく、環境や海の大切さへの自主的な気付きを促していきたい」と、永田さん。「そのような学び方も、私が大学時代に身に付けたものです」と、最後に笑顔で付け加えました。

野外学習指導のときは、結論を直接伝えるのではなく、自分の言葉が「気付き」のきっかけになるようにと心掛けている

福岡大学学園通信 No.55
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