いよいよキックオフ! 世界で夢をつかみとる

試合でも練習でも体を張って
仲間をけん引するのが持ち味

取材当日の朝8時半。福岡大学60周年記念館(ヘリオスプラザ)6階のギャラリー。そこには、眼下に広がる緑色のラグビー場を窓から感慨深そうに眺める、桑水流さんの大きな背中がありました。本学を訪れたのは何年ぶりですか。そう問い掛けると、「卒業以来です」と懐かしさをかみしめるような答えが返ってきました。

身長188cm、体重97kg。スーツ姿の上からでも容易にうかがい知ることができる、トップラガーマンの強靭(きょうじん)な肉体。桑水流さんは、今夏のリオデジャネイロオリンピックから初めて正式種目となる7人制ラグビー(セブンズ)の日本代表チームのキャプテンを務め、本大会出場の切符を勝ち取った立役者の一人。10年以上も桜のエンブレムを胸に着けてプレーし、世界で広く知られる日本の「ミスター・セブンズ」。主要国際大会出場数は、日本歴代最多を誇っています。

7人制ラグビーの特徴は、スピード感あふれるプレーとハイテンポな試合運び。番狂わせが起きにくいとされる15人制とは対照的に、ワンプレーの質の高さがダイレクトにトライにつながる、シーソーゲームのような波乱の展開が魅力。すでに2020年の東京オリンピックでも正式種目として採用が決まっている注目の競技です。「2015年のラグビーワールドカップの盛り上がりで、ラグビー種目に期待が集まっている今だからこそ、チーム一丸となって日本の底力を見せたい」と桑水流さんは意気込みます。

自身のキャプテンシーについて尋ねると少しはにかみながら、「私は話すことが得意ではないので、言葉より行動で示すタイプです。試合でも練習でも、とことん体を張って全力で取り組む姿で、仲間を引っ張るのが自分の持ち味だと思っています」と話します。7人制ラグビー日本代表の精神的支柱として、誰もが認める桑水流さん。そのリーダーシップの源は、自らを追い込み、目標に向かってひたむきに力を尽くした大学時代にありました。

桑水流さんの努力の日々と汗、そして、日本を背負うプライドが染み込んだ代表チームのユニフォームとヘッドギア

試合に出られるまで絶対に腐らず
努力し続けようと決めていた

意外にも小学生から中学生まではサッカーに夢中だったという桑水流さん。ラグビーに転向したのは高校に入学してからです。進学を前に息子の体格の良さを見込んだ父の勧めがきっかけでした。地元でラグビーの名門として名をはせていた鹿児島工業高校へ進学。高校3年生の時には、見事に全国高等学校ラグビーフットボール大会への出場を果たし、「花園」という念願の大舞台でのプレーを現実のものとしました。「戦績は2回戦敗退でしたが、人生で初めて“努力は報われる、夢は叶う”と実感しました。私にとって、決して忘れることのできない強烈な出来事となったのは言うまでもありません」と当時を振り返ります。いつしか、「このかけがえのない経験を後輩たちや、スポーツに励む多くの生徒たちに伝えたい」と考えるようになり、体育教師になりたいという思いが芽生えました。一方で、ラグビーへの情熱は増すばかり。そこで桑水流さんは、保健体育の教職課程が設けられ、ラグビーでは九州トップクラスの福岡大学スポーツ科学部への進学を決意しました。

ラグビー部にいざ入部してみると、同学年の中でも花園経験者は珍しくなく、選手層の厚さとレベルの高さをまざまざと思い知らされました。高校の頃とは明らかに違うハイレベルな環境で桑水流さんを待ち受けていたのは、過酷な練習と激しいレギュラー争いです。「とにかく試合に出たい。その一心で練習に打ち込み、絶対に腐らずに努力し続けようと決めていました」と、その当時の心境を振り返ります。しかし、1年次生ということもあって、なかなか試合に出場できる機会は巡ってきませんでした。

自身のキャッチ技術や走力に手応えを感じた世界との戦い

転機が訪れたのは、まだ大学でレギュラーの座を射止める前の2年次生の時。7人制ラグビーの日本代表チームと福岡大学ラグビー部の指導を兼任していたコーチの推薦で、同代表チームのメンバーとして初招集されるという思い掛けないチャンスがやってきます。「15人制の試合は前半後半各40分ですが、7人制は各7分計14分という短期決戦です。そこで最初のプレーとなるキックオフのボールをマイボールにできるかどうかが勝敗を左右する重要なカギとなるため、ボールをいち早くつかみ取る私の身体能力に期待してのことだったと思います」と選出された経緯を具体的に付け加えます。

このときの日本代表チームは、アジアシリーズで優勝。桑水流さんは、初めて世界との戦いを経験し、ハイレベルな実戦を通して自身のボールキャッチ技術や走力、スタミナに手応えを感じるとともに、多くの刺激やさらなる高みを目指す意欲を大学に持ち帰りました。

努力
報われる

叶う

大学でも日本代表でもキャプテンとしてチームを引っ張る自身のリーダーシップについて熱く語る桑水流さん

大学時代の苦い経験が日本代表キャプテンとしての教訓に

その後、桑水流さんはすぐにラグビー部でレギュラーを獲得。2年次生の冬には、全国大学ラグビーフットボール選手権大会への出場を果たします。しかし、関東勢の実力は高く、無念の初戦敗退。この悔しさが原動力となり、強豪に勝つため自身の肉体改造を決意。親しくしていた先輩の紹介で、レスリング部の朝練に自主参加することにしました。練習内容は、ダンベルや綱登りなど、ハードなメニュー。これまで経験したことのない練習に果敢に挑み、極限まで筋肉を鍛え上げ、当たり負けしない肉体を作り上げていきました。桑水流さんの変化と気迫を感じたのか、ラグビー部員たちの練習にもより熱が入るようになり、部内の雰囲気が自然と活気づいていったそうです。

無意識に発揮されていたリーダーシップ。それが監督の目に留まり、4年次生となった桑水流さんは、ついにキャプテンを任されます。印象に残るエピソードを尋ねると、やや顔を曇らせながら口を開きました。「ある日の練習でのことです。一人の後輩が明らかに手を抜いているように見え、つい声を荒げてしまいました。練習後、あらためて理由を聞くと、実は体調が悪くて熱があると。後輩は無理を押して、練習に参加していたのです。自分の思いだけで突っ走ってはいけなかったと、ただただ後悔しました」。以降、一人よがりにならずに、常に冷静に注意深く仲間に気を配るよう意識しているという桑水流さん。それは現在の日本代表キャプテンとしての教訓にもなっていると言います。

「一冊の哲学書よりも一滴の香水」
学長の言葉が進むべき道を照らす

入学以来、ラグビー漬けの毎日を送っていた桑水流さんでしたが、一貫して決めていたことがありました。それは、どんなに練習がつらくても絶対に授業を休まないこと。「学生の本分は勉強ですし、後輩を持つ立場になったときに、授業を怠けていては示しがつきませんから」と真意を明かします。成長の糧になった授業は、教員免許取得のために履修した科目「コーチ法実習」。「他学部の学生に水泳を教える機会があったのですが、人に何かを教えるには、まず相手の立場になって、どう説明したら分かりやすいかシミュレーションするなど、十分な準備が大切です。授業を通して、多様な視点や物事を整理して考える思考力、理論的に意思を伝えるコミュニケーション力が養われ、それは人との連携が不可欠なラグビーにも生かされていると実感しています」。

壮行会のため本学を訪れた桑水流さんと
ラグビー部の後輩たち

やがて就職活動の時期。入学時は教員免許取得に向けて、勉強や実習にも取り組んでいた桑水流さんでしたが、日本代表に選ばれたころから、卒業後も実業団でラグビーを続ける決心をしていました。4年次には、7チームから入団のオファーが届きます。その中には日本ラグビー界の頂点に立つトップリーグ1位のチームも含まれていました。何が最良の選択なのか。桑水流さんは悩みました。そんな時、背中を押してくれる言葉と出合います。たまたま手に取った福岡大学の広報誌『七隈の杜』に載っていた「一冊の哲学書よりも一滴の香水」という当時の学長の言葉でした。

『七隈の杜』第3号
平成18年12月11日発行

「自分の感覚を大事にしろ。私は言葉の意味を、直感的にそう解釈しました。本を読んで得た知識に頼るのではなく、多くの学びや経験によって磨かれた自身の感性を信じろと。そのとき、関東の強豪チームを負かして、九州という地方から日本一になりたいとの思いが脳裏を横切りました。15人制の日本代表監督の経歴を持つ現チームの向井監督の指導の下でキャリアを積みたいという願望もあり、現在所属する九州のコカ・コーラレッドスパークスにお世話になろうと決断しました。学長の言葉が、進むべき道を照らしてくれたのです」。

自分の感覚を大事に。
多くの学びや
経験によって
磨かれた自身の感性
信じる。

仕事もラグビーも常に全力
目指すはリオでのベスト4進出

入社後、桑水流さんは経営管理部に配属となり、社用車の管理や伝票処理といった業務を担当しています。始業は朝8時半。社会人となってからも準備の大切さを忘れることなく、その30分前には出社するよう心掛けていると言います。昼の12時までは、一会社員として業務に従事。午後はラグビーの練習へ。シーズン中は、合宿や遠征でラグビーの比重が大きくなるとのこと。「二足のわらじを履いて大変そうと、よく言われますが、全くそんなことはありません。仕事の時はラグビーのことは一切考えずに100%仕事と向き合う。逆にラグビーをしている時はそれに集中する。いずれラグビーを引退する時期が来るでしょうし、仕事はその先も続くわけですから、どちらも悔いのないよう全力で取り組むだけです」と桑水流さん。最後に今後の目標を尋ねると、迷わず「世界でベスト4進出を果たすこと」と力強く即答。あえて言葉にはしなかったものの、真っすぐに前を向く瞳には、その先にあるメダルの輝きが映っているように見えました。

午前中はデスクワーク。
時間が限られているからこそ全力で業務に取り組む

福岡大学学園通信 No.54
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