全国高校生川柳コンクール

第5回(平成21年度)全国高校生川柳コンクール受賞作品

応募総数:全国123校の高校生6,701人から15,450作品。
大賞〔福岡大学長賞〕1作品、優秀賞2作品、創立75周年特別賞2作品、入賞50作品を選出しました。

「夏休み ボルトのように 去っていく」 純心女子高等学校一年 山口絵莉菜|大賞〔福岡大学長賞〕

 高校生になって初めての長期休暇、私にはやりたいことがたくさんありました。しかし何かと追われる毎日で、夏の終わりが見えかけたある日、思わず目を疑ってしまうようなウサイン・ボルトの速さと、あまりにも早く過ぎ去ってしまう夏休みとがピタリと重なり、この川柳ができました。受賞ということをお聞きして、とても嬉しく思う反面、まだ信じられない気持ちでいっぱいです。この川柳を作るチャンスを与えてくださった方々に感謝するとともに、このことをきっかけにして、もっと言葉の素晴らしさをたくさんの人と共有できたらいいなと思います。

 「魚になれ」水泳の先駆者は言った。また棒高跳びの選手を鳥人と称えた。それにならえばあのウサイン・ボルトは広野を駆ける豹か。ここでは「夏休み」という限られた時間の速さを疾風のごときボルトに置き換えた。誰にでも平等に与えられた歳月は思った以上に早い。それだけに今日一日、この時間を大切に、ということでもある。

「このせみも わたしの地球の ひとかけら」 沖縄県立宮古高等学校一年 下地利菜|優秀賞

 私が住んでいる宮古島は、五月頃から早くも蝉が鳴き始めます。蝉という生き物は、成虫となってからは一週間しか生きられないと言われています。何十年も生きる私たちと、一週間しか生きられない蝉。寿命ははるかに違いますが、同じ地球上の生き物であることに変わりはありません。すべての生き物を大事にしていったら幸せな地球になると思って、この句を作りました。

 「はかない命」をいうときに「蝉」はその代名詞として使われてきた。「空蝉」を「現し身」に重ねた。蝉と比べた人の命もまた地球の46億年からすればまばたきほどの命でしかない。手に乗せた蝉の抜け殻の軽さも人の軽さもまた同じ。それでもこの積み重ねが地球の重さになることも知っている。「ひとかけら」はその「重さ」を表現している。

「試合の朝 しゃべらぬ父が 頑張れよ」 大分県立大分雄城台高等学校三年 恵良洋介|優秀賞

 私は、野球部でエースとしてずっと試合に出ていました。その際父は、必ず試合には来てくれていましたが、応援などはせず黙って見ているだけでした。ところが、私が高校三年の最後の夏の甲子園大会予選の日に、朝早く家を出る私に対して、父がたった一言ですが声を掛けてくれました。その一言は最高の応援であり、私は高校三年間両親に支えられたことへの感謝の気持ちでいっぱいになりました。そのような思いで詠んだ一句です。

 いつの時代でもそうだ。父は背中で応援し背中で何事も教えてくれた。その父親像がこのところ崩れつつあるが、そう遠くない昭和の時代にはどこにでも見られた父親像だった。キャッチボールの相手をしてくれた父、道具の手入れを教えてくれた父。「頑張れよ」の一言がどれほどの勇気を与えてくれただろうか。父親とはいつの時代でもこうありたい。

「手紙書く メールじゃ出ない ゴミの山」 京都府府立洛水高等学校二年 谷舞架|特別賞〔創立75周年〕

 入賞の報告を聞き、大変驚いているとともに嬉しさでいっぱいというのが今の気持ちです。このような機会を与え、選んでいただいたことに感謝しています。この川柳は書道の授業で作ったものです。"自作の川柳を"という課題に取り組んだ時、ちょうど何年ぶりかに手紙を書き、その時に出たたくさんの失敗作を思い出しました。手紙はメールよりも時間と手間がかかりますが、より相手のことを思いながら書けるものだと思います。また、メールにはない手紙の温もりを伝えることができるのではないでしょうか。メールが主流の中、たまには手紙もいいなと思っていただけたら嬉しいです。

 「こころを伝える」にはやはり手紙。書体も筆跡も見事に書いた人を表現する。筆圧に力を感じ思いを感じるのだ。「体温」を届けると置き換えてもよい。削除キーひとつで一文字消えるが手紙はあらためて最初から書き直さなければならない。一通の手紙には、その向こうにゴミの山があることを想像させる。体温を届ける、とはそういうものだ。

「卒業し 降りるバスにも お辞儀する」 長崎工業高校三年 峯真季|特別賞〔創立75周年〕

 私は高校に入学して以来、バスで一時間ほどかけて通学しています。遅刻することもなく、無事に届けてもらっています。私ももう三年生、社会人になればバスに乗る機会もめっきり減ることと思います。卒業式が終わると高校生活最後のバス通学に感謝の気持ちを込めて、バス(運転手さん)にお辞儀をしようという気持ちで、この作品を書きました。今回選んでいただき、本当にありがとうございました。

 人はどれだけの物や人に助けられて生きていくのだろう。この厳しい世の中、そんなことを考える余裕さえない人がほとんどだ。感謝することも忘れて生きている自分にハッとすることがある。人にお辞儀することはあってもバスという無機物にお辞儀をすることは少ない。忘れかけていた温かいものがこの作品には流れている。

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入賞

作品 氏名 高校名 学年 高校
所在地
夏よりも 暑い教師が ここにいる茂   北斗北海道標茶高等学校1北海道
あいさつは 元気をもらう 第一歩橋 眞美県立庄内農業高等学校3山形県
ありがとう 君に出会えて 変われたよ吉原 彩香県立今市高等学校3栃木県
越えてやる 自分の壁を まず一歩池田 将太県立大井高等学校1埼玉県
頑張れと 言わない父を 目標に梶   圭一県立茂原高等学校3千葉県
走りたい この衝動は なんだろう有松 優行都立国立高等学校1東京都
父と母 政権交代 いつの日か堀口 若菜湘南白百合学園高等学校2神奈川県
いつのまに 小さくなったの お母さん滝川ゆきな飯田女子高等学校2長野県
ETC みんなつけたら 進まない長沼 佳苗飯田女子高等学校2長野県
近代化 それと引き換え 温暖化福地 海人長野県木曽青峰高等学校1長野県
「なんでもいい」 一番困る その返事松橋 聖菜長野女子高等学校3長野県
マイはしを 持って歩いて エコのミー(ME)吉岡   瞳啓新高等学校3福井県
先生が 必死で探す 僕の夢中野 成仁国際開洋第二高等学校2和歌山県
秘密だよ そうして広がる 隠しごと勇元 太樹県立熊野高等学校2和歌山県
読めぬのは 漢字と空気 どっちとも?竹中 悠貴府立吹田東高等学校3大阪府
母親の 優しさ気づかず 八つ当たり柏木 美咲神戸市立須磨高等学校3兵庫県
反抗期 気持ちと態度 反比例沖野 健吾県立尼崎西高等学校1兵庫県
進路では 親の理想が 先走る岡本 俊文宇部鴻城高等学校3山口県
すれ違い ふわりと香る 女の子藤野 聖矢県立宇部工業高等学校2山口県
「ありがとう」 初めて知った 大切さ北谷 貴志県立宇部工業高等学校3山口県
いいことは なかなか目には 見えなくて藤田 了子早鞆高等学校2山口県
精一杯 生きてみせると セミが鳴く田中 暉子九州女子高等学校1福岡県
お金ない それでも母は ふくよかだ横山 眞子九州女子高等学校1福岡県
苦しみが 友との絆を 深くする小坪 伶名久留米市立
久留米商業高等学校
2福岡県
初彼氏 私の心は 温暖化後藤 彩香久留米市立
久留米商業高等学校
2福岡県
母の顔 離れて見ると 僕の顔川島 尚之久留米市立
久留米商業高等学校
3福岡県
山登り 笑っていたのは 父のひざ坂田 祐也久留米市立
久留米商業高等学校
3福岡県
犬までも 母の顔色 見て動く堤   友香久留米市立
久留米商業高等学校
3福岡県
奇跡とは 努力が起こす 魔法です吉田   光県立大川樟風高等学校2福岡県
コンビニで ねこにたかられ ちくわ買う川原 里恵つくば開成高等学校
福岡開成館
1福岡県
喜怒哀楽 緑のピッチで 最後は「喜」寺岡   誠東福岡高等学校2福岡県
秋がきた 男子校にも 飽きがきた田渕 耕平福岡大学附属
大濠高等学校
1福岡県
オレオレと 祖母にかけると 切られちゃう長濱 宏昂福岡大学附属
大濠高等学校
1福岡県
意味もなく 開けてはのぞく 冷蔵庫池田 奈央県立諫早農業高等学校2長崎県
空模様 自分の心を 映し出す中路由香里県立諫早農業高等学校2長崎県
あの頃の 素直な自分は 今いずこ橋口 絵里県立諫早農業高等学校2長崎県
優秀な 人のケシゴム 長持ちだ松田 孝平県立長崎工業高等学校3長崎県
母の味 どんな本にも 載ってない市瀬あゆみ純心女子高等学校1長崎県
頑張った 努力は自分を うらぎらない松川 佳未純心女子高等学校1長崎県
ただいまを 包んでくれる 母の声峰 千奈実純心女子高等学校1長崎県
記録より 記憶に残る 一日に中神 千晴純心女子高等学校2長崎県
すこしだけ 大人の気分 夜のバス三浦穂奈美純心女子高等学校2長崎県
あれ取って あれって何よ お母さん金松 靖子純心女子高等学校3長崎県
英語より わからぬ日本語 増えている鈴木 一史県立球磨工業高等学校2熊本県
授業中 空気が凍る 着信音山本 草作県立球磨工業高等学校2熊本県
着信音 あの曲なれば 胸はずむ首藤優美子県立安心院高等学校2大分県
今日もまた 鉛筆削りて 床につく松田 健志尚学館中学校・高等部3宮崎県
「おふくろ」と 言いだす時期が 分からない揚野 広大県立鹿児島南高等学校2鹿児島県
青春を 忘れぬように 写真撮る久手堅由奈県立南風原高等学校3沖縄県
大学の シャーペン増える 相談会平良 朱里県立宮古高等学校3沖縄県

※ 敬称略

 いつのまに小さくなったのお母さん 母の味どんな本にも載ってない 「おふくろ」と言い出す時期が分からない あの頃抱かれて眠る母は温かくふくよかだった。確かに母は小さくなったが、それ以上に自分が成長していることに気付く。いつの時代も子に勝る宝などあろうはずはない、ということを教えてくれた母。味噌汁も煮付けもほうれん草のおひたしの味も母から子に。
 近代化それと引き換え温暖化 1760年代のイギリスに始まり世界中に広がった産業革命。恐らく、これを起点に加速度的に病んでいく地球と捉えることができる。それでもわずか50年前にはいたるところで蛍が見られ、流れる川は泳ぎを教えてくれる場所だった。私たちは近代化と引き換えに大切なものを失っていくような気がしてならない。
 ありがとう君に出会えて変われたよ すれ違いふわりと香る女の子 若いというただそれだけでまぶしい。年齢を重ねるとしなやかさが無くなる。それは身体のことではない。心のしなやかさだ。変わることができるのも若さ。香りもそうだ。香りはやがて同じ「におい」でも漢字で表すと「匂い」から「臭い」となっていく。あらゆるものが吸収できるのも「若さ」。
 川柳が生まれて250年。俳句と同じ5・7・5の短詩である。詠む対象は社会や人間模様である。入選作品に共通することは家族、環境、そして取り巻く友人たちに温かいまなざしを向けていることである。梅崎 流青

福岡大学創立75周年記念事業「第5回全国高校生川柳コンクール」選考委員会
●広報委員会構成員 学長、副学長(4人)、事務局長、法学部長、薬学部長、教務部長、学生部長
入学センター長、就職・進路支援センター長●学長が指名する者 田代 俊一郎 氏 (西日本新聞社編集企画委員会編集委員)
梅崎 流青 氏 (西日本文化サークル佐賀教室事務局長)
田坂 順子 (福岡大学人文学部日本語日本文学科教授)

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