福岡大学工学部機械工学科の山辺純一郎教授が、水素脆化に関して2件の学術論文を発表しました。
山辺教授に、掲載内容等について話を聞きました。

カーボンニュートラル社会の実現に向けて、液体水素に関する研究が活発化しており、それに伴い大型の水素機器(例えば、大口径バルブ)の需要が高まっています。
大型機器の製造には、溶けた材料を型に流し込んで製作する「鋳造」が向いています。
一方で、水素機器に利用するためには、材料中に侵入した水素によって材料の強度や延性が低下する「水素脆化」の問題を解決しなければなりません。
この論文では、水素脆化を示さない新たな合金鋳物のとして、銅-アルミ-ニッケル-鉄-マンガン合金鋳物の優れた耐水素脆化特性に関する研究内容が紹介されています。
※Journal of Alloys and Compoundsはエルゼビアが出版する合金や化合物に関する国際的な査読付き学術誌で、特に金属合金・セラミックス・半導体材料などの分野における新しい材料の開発や特性解析に焦点をあてています。
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EFA※

近年、3Dプリンティングなどとも呼ばれている付加製造を用いたものづくりが注目されています。付加製造とは、3次元的造形体をつくるために一層一層積み上げていく新たな加工法で、他の加工法で難しい3次元複雑形状品の製造や表面だけでなく内部構造を表現することが可能です。
今後、水素機器への適用も考えられますが、付加製造材の強度や延性に及ぼす水素の影響については不明な点が多いです。
この論文では、析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼の付加製造材と展伸材(付加製造ではない通常の加工プロセスで製造したもの)を準備し、これらの水素拡散や水素脆化の各種特性を取得し、これらの類似点と相違点が詳細に議論されています。
※Engineering Failure Analysisはエルゼビアが出版する工学分野における故障分析に関する国際的な査読付き学術誌で、故障分析・故障診断・事故調査および製品の信頼性向上に関する最新の研究成果や技術動向が掲載されています。
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また、山辺教授は高圧水素ガス環境における種々の金属材料の水素脆化挙動や水素拡散特性をまとめた本も出版されています。

地球温暖化や化石燃料の枯渇、さらに国内においてはエネルギーセキュリティーの問題から「水素」を利用した水素エネルギー社会の実現が期待されています。
しかし、水素は材料中に容易に侵入し、その侵入した水素が材料の強度や延性を低下させます。この現象は「水素脆化」と呼ばれています。水素社会を実現するためには,水素脆化のメカニズムを正しく理解することが不可欠です。
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