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2022525
教育
研究

人文学部歴史学科の桃﨑教授が展示企画「アジアを変えた鉄」で研究成果を発表しました

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1月18日(火)~3月13日(日)、九州国立博物館で企画展示「アジアを変えた鉄」が開催されました。これは福岡大学人文学部歴史学科の桃﨑祐輔教授が代表とする研究チーム科学研究費で進めているプロジェクトの成果発表となりました。研究内容、今後の目標などについて、桃﨑教授に話を聞きました。


−企画展示「アジアを変えた鉄」について教えてください

この企画展では、日本国内の中世遺跡で出土する「棒状鉄素材」に着目しました。これを農具(馬鍬)や釘とみる説と、鉄素材(インゴット)とする説の間で論争が続いていました。私は鉄素材説の立場で、中国の鉄鍋や鉄塊を日本に輸入し、棒状に加工して流通商品にしていたと考えていました。ところが2018年、北京での在外研究中に、棒状の鉄製品が中国から東南アジアへの航海中に沈んだ沈没船から束にした状態で数10~100トンも発見されていることを知って衝撃を受け、論文を書いた中国人の水中考古学者に会って話をしました。こうして棒状の鉄製品は、中国で大量生産されアジア各地に輸出された流通鉄素材だと確信しました。日本のたたら製鉄で作ったと信じられてきた日本刀や大鎧、犂や馬鍬などの農具も、中国から輸入した棒状鉄素材や鉄鍋が材料であった可能性があり、定説が書き換えられる可能性が出てきました。「アジアを変えた鉄」の仮説の証明には科学的な分析が必要となりますので、理学部の研究者との共同研究をこれからも続けていきます。

棒状鉄素材

研究について教えてください

「中世とは何か」の解明をめざしています。鎧冑に身を固めた戦士が、暴力で武人政権を打ち立てるのと同時に、仏教やキリスト教のような世界宗教がこれを制御する相互補完関係ができたのが中世です。この解明に関わるすべてのテーマが研究対象で、起源地であるインド・中央アジアから、東アジア・日本列島に及ぶ範囲の1~2世紀頃から17世紀頃までの馬具・金属工芸・瓦・仏教考古学・陶磁器などの変遷を研究しています。古墳や遺跡から出土したばらばらの破片から、馬具や鎧を図面に起こし、復元図を描くことで、リアルなイメージを伝えたいと思っています。地域の公民館で歴史講座を行っていますが、その中で「わかりやすさ」を強く意識するようになりました。受講者の皆さんと一緒に古墳の測量や発掘を行い、学生が調査成果を市民向けに解説する場も設けています。こうして専門家と市民参画の共同作業で地域の歴史解明を行い、調査成果の社会還元に努めています。

研究を始めたきっかけについて教えてください

小学校5年生の時に家の近所の工事現場で土の中にやきもののヘリが見えたので、掘り出すと完全な青磁の碗が出てきました。中国の龍泉窯で焼かれ、日宋貿易で輸入され、墓に副葬されたものです。その後、大学生の頃に付近が発掘され、荘園の館の遺跡が見つかりました。小学生でアジアの交流というテーマに出会ったこと、そして、コロナ前の2018年に世界を旅したことが大きな刺激になり、命ある限りユーラシア全体の歴史や考古学を追求したいと思っています。

−今後の研究の目標について教えてください

2021年6月に『東アジア騎馬文化受容過程の研究』(1077ページ)を書き上げ、2022年3月に博士号をいただきました。この先1~2年で本にすることが目標です。博士論文で馬具を復元する研究は一段落したので、これから古墳時代から古代・中世の鎧の研究もして、鎧をまとった騎馬武者の姿を復元するのが次の課題です。
研究成果を一般の人へわかりやすく伝えるために、復元イラストを描いていますが、今後CGで馬や人のアバターを作り、馬具や鎧などのアイテムを装着する映像を作ったら面白いと考えています。歴史を知ってもらうために、いろいろな方法や機会を増やしながら、将来を担う人材を育てていきたいと思います。