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202087
産学官連携

福岡大学 新技術説明会紹介④ ~時間・ドップラーを効率的に推定可能な新規レーダ技術~

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 福岡大学では国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の協力のもと、令和2年度は、JSTのウェブサイトで福岡大学新技術説明会を開催しています。

 この説明会は、新技術や産学連携に関心のある企業等へ向けて、研究者が研究内容を発表することで、大学から生まれた研究成果(特許)の実用化(技術移転)を目指すものです。

 その中から、今回は、工学部電子情報工学科 大橋 正良教授の「時間・ドップラーを効率的に推定可能な新規レーダ技術」を一般の方向けに、概略を紹介します。

 



 

1.研究背景と目的

 自動運転の技術は日々進歩しています。人が一切の操作をしないレベル5(場所・状況に関わらず全てシステムが運転を行うレベル。※ハンドル・アクセルが不要な状態)の自動運転の実現も将来的には可能と言われています。このレベル5の自動運転が実現することによって、「交通事故の低減」、「渋滞の解消・緩和」、「運転手の負担軽減」、「少子高齢化社会への対応」が図れます。これを叶えるためには、高精度でレスポンスの速いレーダ技術が必要とされています。

 今回、ガウス波形という波形を基本波形として採用し、時間軸(時間領域)・周波数軸(周波数領域)上で交互に探索を繰り返すことによって、高精度なレーダを効率よく実現できる技術を開発しました。

 

2.従来技術の現状と課題

 レーダは、アンテナから電波を発射し対象物にあたり返ってくるまでの時間(遅延)と周波数のドップラーシフト量(電波等の発生源と観測者との相対的な速度の存在によって、発生源と動く物体の波の周波数が異なって観測される現象)を観測することで、対象物までの距離と速度を測定する技術です。

 これまでのレーダ方式は、パルス方式(単発のパルスを発射する)、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式(時間的に周波数がのこぎり状に変わる波)、パルス圧縮方式(パルス幅の長い信号を発信し、受信側で信号処理によって、等価的に尖鋭なパルス信号として検知)があります。どれも簡易な方法で遅延、ドップラーシフト量をそれぞれ、あるいは両方を求められますが、もし最も確からしい量を厳密に求めよう(最尤推定)とすると、要求される分解能でちょっとずつ送信波形の時間、周波数をずらして受信信号との相関(類似度)をとり、その中からもっとも相関の高い波形に対応するずらし時間とずらし周波数を遅延とドップラーシフトの推定量とする方法をとるという、2次元の領域での推定演算が必要となり、多大な計算が必要でした。

 

3.研究開発の概要

 このような現状を踏まえ、新しいレーダ方式として、時間軸だけで探索するのではなく、FFT(高速フーリエ変換)を用いて時間信号を周波数成分の信号へ変換し、時間軸上でドップラーシフト量の推定を行う一方、周波数軸上でも遅延量の推定を行い、両者の推定結果を交互に交換して探索を繰り返すことによって、高精度なレーダを効率よく実現できる技術を開発しました。新技術は、従来、前後の他の信号波形に干渉を与えるといわれ、これまでほとんど使われてこなかったガウス波形を基本波形として採用しています。このことにより、相関の演算が、周波数領域と時間領域で遅延・ドップラーを別々に推定してその積をみればよいことが数学的に示されています。

 手順としては、最初に時間領域である遅延を仮定し、この遅延の下で最も受信信号と相関が高いドップラーを当座の推定値として求めます。次に、得られた推定ドップラーを周波数領域側に入力し、このドップラー量の下で最も受信信号と相関が高い遅延値を当座の推定値として求めます。このように、時間軸と周波数軸の2面からマッチングを交互に繰り返し、遅延とドップラーを求め、推定が収束したとき、これを最適推定値として出力します。

 

4.実験の結果

 計算機によるシミュレーションでは、平均4回程度の探索でほぼターゲットの遅延とドップラーを検出することができました。雑音が多大でないときには高い正答率が得られています。これにより、従来の最尤推定に要する計算が2次元オーダの演算が必要であったのに対し、本提案方式では1次元オーダの推定演算の複数回の繰り返しで行えることとなり、演算量の大幅な削減が図れ、結果高速な推定が行えることになります。

 

5.今後の展開

 これからさらに本方式の性能評価を続けるとともに実用化を見据えた利用周波数をはじめとする各種信号パラメータを検討してゆきます。またマルチレート(信号を帯域分割し,サブバンドごとに目的の処理を行うこと)信号技術を活用してより効率的な推定を可能とするシステム構成を検討し、ソフトウェア無線技術を活用して試作器の開発をめざします。

 自動運転時代には自動車のみならず、数多くの移動物体(自動車、バイク等)がレーダを発射して、他の移動物体を検知するような状況が想定されます。提案方式では、発射信号上にさらに符号を載せることが可能で、各自動車のレーダ装置に固有の符号を与えることで他のレーダの電波と区別するのみならず、他の電波の影響を軽減することが可能になります。

 


提案方式の概要

発表内容の詳細については、こちらをご覧ください。