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2020717
産学官連携

福岡大学 新技術説明会紹介③ ~小口径・閉鎖系内表面の抗血栓性化を可能にする新規バイオマテリアル創製技術~

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 福岡大学では国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の協力のもと、令和2年度は、JSTのウェブサイトで福岡大学新技術説明会を開催しています。

 この説明会は、新技術や産学連携に関心のある企業等へ向けて、研究者が研究内容を発表することで、大学から生まれた研究成果(特許)の実用化(技術移転)を目指すものです。

 その中から、今回は、工学部化学システム工学科 八尾 滋教授の「小口径・閉鎖系内表面の抗血栓性化を可能にする新規バイオマテリアル創製技術」を一般の方向けに、概略を紹介します。

 



 

1.研究背景と目的

 日本では2025年には65歳以上の高齢者が3677万人に達するなど、急速な高齢化が問題となっています。このため、社会保障給付費は年々増加しており、このうち医療費は、42兆6000億円(平成30年度の概算)となり、前年度より3400億円増加しています。このような中、医療費を抑制することは喫緊の課題となっており、医療材料においても高性能でありかつ低価格化を行う必要があります。このたび、安価で既に人工関節などの使用実績もある【ポリエチレン(PE)】を新規【SCCBC(側鎖結晶性ブロック共重合体)】で改質することにより、これまで不可能であった流動系・閉鎖系の人工臓器に抗血栓性を発現させることができるバイオマテリアル(主にヒトに移植することを目的とした材料)を高性能かつ簡便に創製する手法を開発しました。

 

2.従来技術の現状と課題

 これまでの医療用抗血栓性材料は、生体機能性素材を基板にコーティングする技術と生体機能性素材を基板から成長させる技術がありました。生体機能性素材を基板にコーティングする技術は、基板との接着性に問題があり、血流によりはがれる恐れがあります。また、膜厚のコントロールや平滑性に難点がありました。一方生体機能性素材を基板から成長させる技術は、基板の改質が難しいことやこの手法を用いて製品化すること自体高度な技術が必要でした。また両方法ともに、小口径や閉鎖系への適応は不可能でした。このため、これらの技術は基本的に基礎研究でとどまっており、小口径・複雑形状をした内面構造を持つ人工血管や人工臓器などへの対応は非常に困難でした。

 

3.研究開発の概要

 このような現状を踏まえ、世界で最もよく使われている樹脂であり、かつ人工関節などへの使用実績もあるポリエチレン(PE)に、SCCBC(側鎖結晶性ブロック共重合体)を用いることで、複雑なプロセスなしにPE表面に種々の機能高分子をブラシ上に生やす技術を開発しました。この技術は、PEをSCCBC溶液に浸すあるいは塗布するだけの操作であるために、非常に簡便であるだけでなく、小口径あるいは閉鎖系に対しても適用できる画期的な技術であり、人工血管等の多種多様なバイオマテリアルを創製することが可能となります。

 

4.実験の結果

 一般的にポリエチレン(PE)は化学的改質性が著しく乏しく、他の材料と接着できない等の相互作用力も著しく低い欠点があります。PEにSCCBCを用い改質することにより親水性・接着性、生体親和性を付与することが可能になるか実験を行いました。PEフィルム、PEフィルムに酢酸ブチルを塗布したもの、PEフィルムをSCCBCで改質したものを作成し、引張試験による吸着力評価を行いました。その結果、PEフィルムをSCCBCで改質したものは、良好な接着性能が示されました。また、抗血栓性の実験においても、従来の医療用ポリマー(PMPC)と同様に血小板の吸着・付着はありませんでした。

 

5.今後の展開

 本技術の適用により、現在、一般的に用いられている表面を改質する物理的手法(プラズマ処理等)では不可能であった閉鎖系、あるいは小口径や複雑な形状をした内面構造、さらには、ごく薄膜の構造体に対しても、耐久性のある強固な改質が可能となりました。今まで、このような手法はなく、この新技術により、閉鎖系や血流のある人工臓器に対して、抗血栓性が剥離することなく、実使用に耐えうる高性能なバイオマテリアルを安価に商業生産することが可能となります。

 

 

発表内容の詳細については、こちらをご覧ください。