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202078
産学官連携

福岡大学 新技術説明会紹介② ~心拍で読み解く持久能力評価法~

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 福岡大学では国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の協力のもと、令和2年度は、JSTのウェブサイトで福岡大学新技術説明会を開催しています。

 この説明会は、新技術や産学連携に関心のある企業等へ向けて、研究者が研究内容を発表することで、大学から生まれた研究成果(特許)の実用化(技術移転)を目指すものです。

 その中から、今回は、スポーツ科学部 上原吉就教授の「心拍で読み解く持久能力評価法」を一般の方向けに、概略を紹介します。

 



 

1.研究背景と目的

 個々人の有酸素系の能力を把握することは、様々なメリットがあります。アスリートにとっては、持久力の判定、トレーニング効果の測定、効果的なトレーニング強度が判るようになります。また、非アスリートにとっても、健康指標、ダイエットに効果的な運動強度、安全な運動強度等が判るようになります。心拍のゆらぎ(心拍変動)から自律神経を評価する非侵襲的な新たな指標を開発することにより、最適な運動強度を判定することが可能になると考えられます。

 

2.従来技術の現状と課題

 従来の有酸素系の能力測定方法としては、「心拍数測定」「血中乳酸濃度測定」「呼気ガス分析」「交感神経活動指標」等が用いられてきました。心拍数の測定は容易に測定可能ですが、不正確で実用性に乏しいという欠点があります。血中乳酸濃度測定は、採血を約1分毎に行い乳酸値の急増点を見つける作業が必要であり、熟練した作業が不可欠であるだけでなく侵襲的で手間がかかり、かつ医療従事者が必要です。呼気ガス分析は測定機器が高価で、測定する高度な技術も必要です。最近流行しているウィルス感染のリスクも危惧されています。また、従来の交感神経活動指標【LF/HF】は関係する心拍変動(心拍の1拍1拍の揺らぎのこと)から算出していましたが、運動中の指標としては有用ではない可能性がありました。

 

※血中乳酸濃度…強度が高い運動をある程度持続していることにより、大量に乳酸が生成された場合、筋肉での乳酸利用が間に合わなくなり(生成量>利用量)、血液中の濃度が上がる。

※呼気ガス分析…呼気中の酸素および二酸化炭素の濃度と容積を分析すること。換気性作業閾値 (VT)決定の際に用いられる。

 

3.研究開発の概要

 このような現状を踏まえ、従来の測定方法に代わる、運動中の交感神経活動を反映する指標を簡易かつ安価にできる指標を開発しました。20代の健常成人を対象に、心拍変動測定を行い、リアルタイム周波数解析により得られた自律神経成分を10秒ごとに平均値を算出しました。交感神経・副交感神経活動の指標としての低周波数成分【LF(Low frequency power)】と副交感神経活動の指標としての高周波数成分【HF(High frequency power)】を用いた従来の交感神経活動の指標としての【LF/HF】と新規指標【Heart rate/LF】の比較を行いました。

 

※LF(Low frequency power)…心拍の周期変動の周波数成分をパワースペクトル解析し、低周波数成分(0.04-0.15Hz)を取り出したもの。交感神経・副交感神経活動の指標。

※HF(High frequency power)…心拍の周期変動の周波数成分をパワースペクトル解析し、高周波数成分(0.15-0.40Hz)を取り出したもの。副交感神経活動の指標。

 

4.実験の結果

 運動中の心拍上昇と自律神経の関係から導き出された交感神経活動の新規指標【Heart rate/LF】は、換気性作業閾値(VT)及び乳酸性作業閾値(LT)から急増し、また、漸増運動負荷中の血中乳酸値とカテコールアミンならびに【Heart rate/LF】の動態には強い相関がみられました。さらに、【HF】と【Heart rate/LF】の優位性が入れ替わるポイントで、より正確でリアルタイムに乳酸閾値と換気性閾値を判定することができました。

 

※換気性作業閾値(VT)…運動強度を増していくときに、呼気中の二酸化炭素排出量または換気量から無酸素性作業閾値(有酸素運動から無酸素運動に切り替わる転換点)を決定する数値。

※乳酸性作業閾値(LT)…運動の強度が上がるに連れて、血液中に増えた乳酸の量を測定し体内に急激にその量が増え始める数値。

※カテコールアミン…ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリンからなる神経伝達物質等で交感神経活動に関係している。

 

5.今後の展開

 本技術の適用により、現在、一般的に用いられている呼気ガス分析装置を使用する必要がなくなり、コストが1/100~1/1000程度まで削減することが期待されます。また、簡便、安価でかつ正確に有酸素性能力及び最適運動強度を測定することができる専門機器(アスリート・医療・ジム向け等)への搭載が可能となります。さらに、ダイエットやファンラン等に用いられるスマートウォッチ等のウェアブル端末への応用も期待できます。

 

発表内容の詳細については、こちらをご覧ください