福岡大学学園通信 No64
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国際データを基に労働の流動性と賃金の関係を分析玉田 桂子教授KEIKO TAMADAPROFILE京都大学経済学部経済学科卒業。2004年、大阪大学大学院国際公共政策研究科国際公共政策 博士課程修了。博士(国際公共政策)。研究分野は労働経済学。経済学部研究テーマを選んだ理由や結論の根拠などを細かく質問するので、学生たちには厳しい先生と思われていると思います。ただ、人工知能(AI)などの技術発展を背景に、今後の社会ではますます自分で「考える力」が必要になると思います。私の〝質問攻め〟によって深く「考える力」や「情報を見分ける力」を磨き、どんな環境でも生き抜く力を身に付けてほしいと思います。学生の頃はフランス料理のシェフに憧れていましたが、「きょう強 じん靭な胃袋が必要」という記事を目にして断念。その後、海外のオートクチュールの持つ迫力に引かれるようになり、服飾の展示会や服飾に関する博物館を訪れるようになりました。服装はその人の嗜好や思考が分かるため興味深く、仕事柄、それを分析しています。Q.1学生にどんな力を付けてほしいですか。A.「考える力」「情報を見分ける力」。Q.2先生の趣味は何ですか?A.服飾に関する展示会の鑑賞です。研究への思いとオフの顔を知る2つの質問研究スイッチ大学卒業後は大学院に進学し、自立したいという気持ちから民間企業にシステムエンジニアとして就職した玉田桂子先生。希望して入った会社でしたが、労働環境の実態に疑問を感じるところがあり、退職して再び大学院で研究を始めました。当時を振り返って「若気の至り」と苦笑いしますが、この時の経験が今の研究にもつながっています。先生の研究分野は「労働経済学」。経済学の観点から労働市場のさまざまな問題を読み解くもので、先生は、就職・転職といった「人の行動」と賃金の関係性などを分析しています。例えば、企業と学生(=労働者)はお互いのことをよく知らないため、試験や面接を行った上で労働契約を結びます。ところがいざ働き出すと、「期待したほどのスキルがない」「思っていた職場と違う」といったミスマッチが起こることもあります。配置転換や転職などで解消できればいいのですが、それができなければ企業は意欲の低い人にコストをかけ、労働者は労働環境・条件に不満を持ちながら働き続けることになります。このようなミスマッチがどの程度あり、それが賃金にどのように影響をもたらしているのかについてOECD(経済協力開発機構)が発表している20カ国のデータから分析しています。学会などで各国の研究者から寄せられた意見を参考に研究を改善し、研究結果を専門誌などに発表することを目指します。論文に掲載された知見は、国や地方の政策の提言として活用されることもあり、労働環境の改善などにつながる可能性があります。研究を進めるうちに、転職しにくい環境ほど、雇用のミスマッチが多く起こることを示した研究もあることが分かってきたと言います。「何か違うと思ったら、自ら動いて環境を変える選択は、企業・労働者双方にとって幸せなことが多い」と語る玉田先生。研究や論文発表を通してこうした認識が広まり、企業や労働者たちの意識を変えていくことが、「より良い労働環境を築く」という大きな目標につながっていきます。「成長した学生の姿を見るとうれしい」と顔もほころぶさまざまなデータ分析24FUKUOKA UNIVERSITY MAGAZINE January 2019訪れたパリ装飾芸術美術館で購入したハガキや雑誌

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