福岡大学学園通信 No64
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15FUKUOKA UNIVERSITY MAGAZINE January 2019就職・進路大会2日前に頚椎骨折夢の世界大会を棄権けい つい応援してくれた人たちへ感謝の気持ちを込めて踊る 夢の舞台の切符をつかみ、開催地・イギリスに乗り込んだ中村さん。悪夢は大会本番を2日後に控えたリハーサルで起きました。片足で体を回す技の途中に軸足を滑らせて床に顔面から転倒した中村さんは、そのまま立ち上がれず、救急車で病院へ搬送されます。何が起こったのか分からず、ベッドの上で動かせる部位のストレッチをしていると、看護師さんにものすごい剣幕で怒られ、止められてしまいます。 診断結果は第一頚椎を3カ所骨折する重傷。大会は棄権を余儀なくされ、「しばらくは涙しか出ませんでした」。それでも病室で自分が出るはずだった大会の中継を見ながら、「絶対この舞台に戻ってくる」と誓います。 ただ、骨が元に戻るのを待つ間は一人でベッドから起き上がることもできません。他の選手が練習を続ける中、焦りは募るばかり。もうやめてしまおうかという考えもよぎったと言います。 「当時28歳。もともと、この世界大会を最後に、選手を引退しようと思っていました。夢の舞台に出られたら満足だと思っていましたから…」 鬱々とした中村さんの心を動かしたのは、たくさんのバトン仲間から届く千羽鶴やメッセージでした。「バトンができる環境も、支えてくれている方の存在も、いつしか当たり前のようになっていました。自分はこんなに応援してもらっていたんだと、ハッとしました」。 このままやめられない。踊る喜びをもう一度表現し、感謝の気持ちを伝えて恩返ししよう。そう決意しました。 入院から3カ月後、再びバトンを手にする日がやってきました。最初に挑戦したのは、バトンを上に投げて体を回して取る動き。幼稚園の頃にはできた基本技ですが、素人のように目が回ってしまったと言います。 体力と勘を取り戻すべく、中村さんの戦いが始まりました。これまで以上の体力強化に加え、改めて表現力を身に付けようと、ミュージカルやバレエなどを繰り返し見ては研究します。 「それまでは〝夢がかなえられない〞〝満足のいく演技ができない〞など、苦しいことしか考えられませんでした。でもケ人々の心を動かすバトンの素晴らしさを伝えたい24135うつうつ■1 これまで出場した国際大会で獲得したメダルと表彰盾 ■2 国際大会出場時にもらえる大会ワッペン ■3 練習用のバトンと、練習時の音楽演奏用に携帯しているラジカセ ■4 2018年8月、世界バトントワーリング選手権大会での演技■5 2018年4月、東京で行われた公演での演技

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