福岡大学学園通信 No63
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26FUKUOKA UNIVERSITY MAGAZINE October 2018「クラゲ」を対象に、細胞が神経回路を作る仕組みを研究中川 裕之教授HIROYUKI NAKAGAWAPROFILE理学部地球圏科学科学生の主体性を尊重し、学生自身が興味を持つテーマを研究してもらっています。マイナーな分野の研究も多いため、私にも結果は分かりません。「あなたが世界で初めて研究している内容だから、しっかり観察しよう」と声を掛けています。「誰もやったことのないことにチャレンジした」「分からないことを調べ、発見した」という経験は、社会に出た時にきっと役に立つと思っています。子どもの頃から天体に興味があり、天体望遠鏡を持っていますが、福岡はPM2.5などの影響で星がよく見えず残念です。今は写真撮影に興味が移り、キャンパス内をぶらぶら歩きながら花などを撮影しています。カメラは数台持っていて、子どもを撮る時、草花を接写する時などと、用途に合わせて使い分けています。改めて考えれば「観察」が好きなんですね。Q.1A.学生自身が興味を持つ研究テーマにチャレンジしてもらっています。Q.2先生の趣味は何ですか?A.写真撮影です。キャンパスを歩く時、いつもカメラをカバンに入れています。研究への思いとオフの顔を知る2つの質問研究スイッチ研究室にある大きな透過型電子顕微鏡。その傍らのモニターには数万倍に拡大された細胞が映し出されます。中川先生の研究テーマは細胞運動・細胞骨格。細胞はどのように動いているのか。どのような刺激を与えたら動くのか。〝細胞の動く仕組み〞に焦点を当てた研究です。例えば、内臓や筋肉の動きに作用する運動神経。この神経細胞は頭部から腰の中継地点を経由し、足先まで伸びています。事故などで運動神経が通っているけいつい頸椎やせきずい脊髄を損傷すれば麻痺が残りますが、神経細胞が伸びる仕組みを解明できれば、再び体を動かせる可能性が出てきます。がん細胞はもともと動いていなかった細胞が動き始め、他の組織に潜り込んで増殖を繰り返します。がん細胞の動く仕組みが解明できれば、増殖や転移を防ぐことができるかもしれません。傷口をふさぐのも細胞の動きによるものですが、その動きをコントロールできれば傷跡を残さず治癒できる期待が膨らみます。このように細胞の動きに関する研究は、医療や美容などに結び付く可能性を秘めた夢のある研究です。中川先生が生物学に興味を持ったのは高校生の時。今と比較するとほとんど解明が進んでいなかった遺伝子の分野に興味が沸き、生物学を専攻したと言います。大学で筋肉の動きに関する研究を行い、そこからさらに未知の分野であった細胞の研究に興味が移っていきました。現在の目標は、全ての生物に共通する最もシンプルな細胞の動きを探ること。その研究のためクラゲを研究対象にしています。クラゲの体の構造は非常にシンプルで、少数の神経細胞が体の動きを制御する神経回路を作っています。そのクラゲの研究から、細胞の動きと神経回路を作る仕組みが同時に分かると考えています。「根本的な細胞の仕組みが解明できれば、その応用で多くのことが分かるはず」と中川先生。その研究成果が他分野でも応用されることで、広く社会に貢献できる可能性があるのです。「カメラショップの前を通りかかると、ついのぞいてしまう」というカメラ好き蛍光顕微鏡で見たがん細胞1990年、千葉大学理学部生物学科卒業。1995年、千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。2006年福岡大学理学部助教授、2012年4月から教授。博士(理学)。研究分野は細胞生物学。研究室では学生たちに、どのような指導をしていますか。実験室で学生を指導する先生。学生たちの主体性を尊重した指導が行われています

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