福岡大学学園通信 No63
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14FUKUOKA UNIVERSITY MAGAZINE October 2018何となく過ごしていた自分にスイッチを入れてくれたゼミ合宿地域観光の拠点・由布院駅の若き駅長 「こんにちは、いらっしゃいませ」――駅の改札から聞こえる明るい声。大きな存在感を放つ特急「ゆふいんの森」号が停車する由布院駅(大分県)のホームに立ち、降車客に声を掛ける駅員の中に、真っ黒に日焼けした長身の男性の姿が見えました。今回取材させていただく、駅長の森五岳さんです。「ここでは駅長としての仕事以外に、観光地を盛り上げるためのイベント対応など駅の外での活動も多く、こんなに日焼けしてしまいました」と爽やかな笑顔を見せてくれました。 森さんは現在38歳。九州旅客鉃道(JR九州)で最年少の駅長です。2002年に本学経済学部経済学科を卒業後、JR九州に入社。旅行事業本部の営業職やグループ企業である旅館の総支配人など多様なキャリアを重ね、2017年、14年振りに鉄道事業の現場に戻ってきました。 「旅行の法人営業、旅館でのおもてなしなどこれまでの経験をこの観光駅で生かしなさいと、駅長を任されたのかもしれません」 出身は、熊本県水俣市。高校生当時は、福岡は東京に匹敵するほどの都会に見えていたそうです。 「その都会にあって福岡大学は知名度もあり、とにかく大きいというイメージでした。そこで学ぶことで、人とのつながりも、可能性も広がるのではないかと思いました」。元来好きだった社会や歴史に深く関わる経済を学びたいと、経済学部を選択。 「ただ正直なところ、入学後は将来のことを深く考えることもなく、アルバイトやサークル活動をしながら、何となく日々を送っていました」 将来を考えるきっかけとなったのが、3年次の夏に行った1泊2日のゼミ合宿です。「国際経済学」がテーマの井手豊也先生のゼミ。約20人の仲間が集まった合宿では、卒業論文のテーマと進路について一人ずつ発表しました。 森さんは将来像や目標を漠然としか語ることができず、普段は多くを語らない井手先生にも「もう少し、きちんと考えなさい」と諭されました。その時大きな衝撃を受けたのが、仲の良かった友人の発表でした。よく知っていたはずの彼の口から出てきたのは確固たる就職観と、すでに志望先の試験対策を進めているという事実。真剣に将来を考え、準備を進めていた友人を前に、森さんは「自分は今まで一体何をしていたのだろう」と自己嫌悪に陥ります。ただ、同時に「自分にもやれないはずはない」と奮い立ちます。 業界研究や筆記試験の勉強を始め、OB訪問やインターンシップにも意欲的に取り組みました。「社員が生き生きと働いているか」「自分がそこで活躍する姿を想像できるか」を軸に企業研究を進め、「地元九州をリードする企業で、自分もリードしていきたい」との思いで志望先を絞り込みました。 その中の一社だったJR九州の説明会で福岡大学のOBに出会った森さん。当時、系列のコンビニエンスストアで店長をしていたその方はバイタリティーに溢れていました。自分の仕事のことを生き生きと語る姿と、その方の向上心やチャレンジ精神に、強い共感を覚えたと言います。  JR九州はその頃、鉄道事業のほかコンビニエンスストア事業やマンション・不動産事業などにも力を入れ始めていた時期。一つの街をつくるディベロッパーとしての仕事に興味を持った森さんは、周りの学生が面接で鉄道事業への熱い想いを語る中で「入社後は不動産事業に携わりたい」とアピール。4年次の5月に内定を得ました。入社後の不動産業務に生かそうと、在学中に宅地建物取引士(宅建)の資格も取得しました。クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」の発車に手を振って応える

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