福岡大学学園通信 No60
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37FUKUOKA UNIVERSITY MAGAZINE January 2018ななくま通信羽田氏は冒頭、出演したテレビ番組での経験を基に「思っていることを言語化するのは難しい」と前置きし、「どの情報を、どの順番で伝えたいのかを整理し、論理的であることがまずは大切」と話しました。その上で、「論理的であってもパッケージ化された言葉では人の心は動かせない。論理の枠組みから逸脱するくらいの深い思考や自分の中でも整理しきれていない思いがあって、それらを何とか伝えようとするところにしか、感動は生まれない」と語りました。そのために必要なことは“小説を読むこと”と言う羽田氏は、特に住んでいる国や生きた時代の異なる作家により書かれた小説を読Tics第4回オーサービジットで芥川賞作家・羽田圭介氏が講演論理性とそれを破綻させる深い思考、その葛藤が読み手の心を動かす後半では学生5人が登壇して羽田氏に質問。「小説家の使命は?」との問いに「いろいろな価値観があることを伝え、例え1人でも“こんな自分でもいいんだ”と思ってもらうこと」と回答。「やりたいことが見つからない」との悩みには、「分からないなりにも行動することが大切。将来、多くの選択肢が持てるように準備しては」などのアドバイスが贈られました。1985年、東京都生まれ。2003年、高校生だった17歳の時に『黒冷水』で文藝賞を受賞。2015年『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞した。2017年、話題作『成功者K』を発表プロフィル羽田圭介氏むことについて、「全く異質の考えや思想に触れることができ、自分を見つめ直すきっかけになる」「ネットニュースばかり読んでいても、自分の意に沿う情報を探しているだけで、思考の広がりや深耕にはつながらない」と、その理由を説明しました。話は世間をにぎわせている人工知能(AI)にも及びました。「論理的思考はAIの得意分野だが、深い思考の末に導き出された人間の“イビツ”な考えがあって初めて、そこに面白さやオリジナリティーが生まれる」と話しました。最後に「今の自分を否定する言葉や思考に触れることで自らを客観視でき、成長につながる。福岡大学図書館には小説も多く所蔵されており、読書になじみやすい環境にあるので、若いうちにぜひ多くの本を読んでほしい」と締めくくりました。10月16日(月)、第4回オーサービジットが福岡大学831教室で行われました。「オーサービジット」は、2012年7月に中央図書館が開館したことを記念して始まった福大生ステップアッププログラム(FSP)の一つで、講演会や意見交換会などを通して参加者が作家の声を聞くことができる企画です。今回は2015年に『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞した作家・羽田圭介氏を迎え、「小説家というしごと~思っていることを言語化する~」をテーマにした講演や、オーサービジットで初めての取り組みとなる学生代表による質疑応答が行われました。当日は学生や教職員、地域住民の方など374人が参加し、羽田氏の言葉に耳を傾けました。

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