福岡大学学園通信 No60
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32FUKUOKA UNIVERSITY MAGAZINE January 2018「パワースポット」とは、「スピリチュアル・パワースポット」、すなわち「霊的な力を感じる場所」のことです。もともと日本には、江戸時代まで「れい霊 じょう場」と呼ばれる公式なパワースポットがありました。その代表的なものが「寺社」です。修行を積んだ「社僧」が か加 じ持 き祈 とう祷を行い、それによって参拝者は無病息災や家内安全などのげん現 ぜ世 り利 やく益(この世で受けられる神仏の恵み)を得ることができました。授けられたお札を家に貼ることも、現世利益につなげるための行為でした。明治時代になると政府の「神仏分離」によって、寺社は神社と寺院に分離され、社僧は加持祈祷などの宗教的行為が禁じられます。今でも神社には、「お祓い」や「おみくじ」がかつての名残として残っていますが、いずれも加持祈祷を伴わない形ばかりのもので、霊的な力を感じることができる霊場は姿を消してしまいました。ただ、現代でもシャーマン(祈祷師)的な素質を持つ人がいます。そうした人の「この場所で神秘的な体験をした」という言葉が口伝えで知られるようになり、パワースポットとして広がっていくようです。現在、パワースポットと言われる場所には、神秘的な経験をした人たちの口伝えによるものと、かつて霊場として栄えた神社や寺院があります。ただし、いずれも宗教的行為は伴わないこともあり、〝効果〞はそれぞれの人の心の持ち様によるところが大きいと思います。なお、糸島市の雷山にあるせん千 にょ如 じ寺 だい大 ひ悲 おう王 いん院 は、昔ながらの加持祈祷を行っている「祈祷寺院」の一つとして知られています。かつての日本人が霊場で体験したパワースポットの効果は、祈祷寺院を訪れると実感できるかもしれません。英彦山(福岡県田川郡)はかつて、山岳信仰と仏教が結びついた「修験道」(修験宗)の聖地として知られ、多くの修験者(山伏)たちが修行を行っていました。明治政府の修験廃止令によって山伏は姿を消しましたが、英彦山には山伏が修行に励んだとされる洞窟が今も多く残り、一大パワースポットエリアと言えます。日本には非業の死を遂げた貴族や武士を祀ることで平穏と繁栄を実現しようとする「御霊信仰」があり、そうした場所はパワースポットになりやすいと言えます。地下鉄七隈駅そばの菊池神社は、鎌倉幕府討滅の戦いで敗死した肥後の武将・菊池武時の胴を埋葬しています。早良区野芥には悪縁を切るのにご利益があるとされる縁切り地蔵があります。お地蔵様の体を削って相手に飲ませると縁が切れるとされ、その体は変形しています。Good Lifeサポート若い人たちを中心にしたスピリチュアルや風水などのブームにより20年ほど前から、注目を集めるようになった「パワースポット」。〝気がみなぎる場所〟〝癒やしが得られる場所〟として紹介されることが多いようですが、実際はどういう場所のことを言うのでしょうか。また、その場所を訪れることで、どのような効果が期待できるのでしょうか。「パワースポット」とは、一体何!?・ 今回のテーマ ・教えてくれたのは人文学部文化学科白川 琢磨教授Q.九州最大のパワースポットは?Q.福大の近くにあるパワースポットは?A かつての修験道の聖地・  英彦山です.A 七隈の菊池神社、  野芥の縁切り地蔵などがあります.気になる疑問に答えます!「パワースポット」とは、霊的な力を感じる場所わずかに残る「祈祷寺院」で昔ながらの加持祈祷を体験社会学修士。研究分野は文化人類学、民俗学、宗教学。雷山千如寺大悲王院(糸島市)(右)英彦山神宮の鳥居(左)白川先生の著書  『英彦山の   宗教民俗と文化資源』

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