福岡大学学園通信 No60
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■1 非常に珍しい5連の登り窯は15年ほど前まで使用していたが、再現性を重視し今はガス窯を使い創作している。 ■2 2017年10月23日に行われた認定書交付式で認定書を手にする福島さん。 ■3 福島さんの代表作、中野月白瓷鉢。 ■4 今年7月、九州北部豪雨で被害を受けた東峰村にあるギャラリーと作業場。被災と時を同じくしての人間国宝認定に「注目していただいている今だからこそ、きちんとしたものづくりをしていく。それが工芸をやっている私たちなりのお返しの仕方だと思っています」詞となった「飛鉋」も、実は昭和に生まれた技法。300年以上にわたる小石原焼の歴史から見れば、ごく最近のことなのです。「今私がしていることも50年後には、伝統技法と呼ばれているかもしれない。伝統とはそうやって生まれていくもの。だから常に新しいものを創り続けていかねばならないのです」。 自信に満ちた言葉が印象的な福島さんにも、迷った時期はあったそうです。 「芸大や美大を出た陶芸家が多い中、自分は勝負できるだろうかと不安を覚えた時もありました。そんな時、ある高名な美術評論家の先生に福岡大学を卒業したと話したところ、『だから型にとらわれない今の君があるんだね』と言われたのです」。 福岡大学を出て、釉薬の美しさや造形美を追求してきた自分にしか表現できないことがある。ないものねだりをせず、今置かれている環境、あるもので勝負する。その大切さに気付いたと言います。 「家業を継ぐ使命感からスタートし、目の前のことを懸命にやっていると、そのうちに陶芸が好きになっていった。そうすると苦労を苦労と思わなくなるんです。今も、ろくろを回している時が、一番楽しいですよ」。 粘土に手を添え、新たに誕生した「人間国宝」が、優しく微笑みました。■2■3■1か作れないものを作らなければ」 福島さんは、イメージする作品を表現するために粘土も手作りで、粒子を最適な細かさに調整します。特に青白い釉薬「月白」を使った作品では、一般的な陶土の約半分まで細かく濾し上げました。普通の陶芸家はまず使うことのない、きめの細かい土を使うことで、土と釉薬の焼き上がりの収縮率の差を縮め、貫入(=釉の面に出る細かいひび)をなくし、つるりとした風合いを実現したといいます。 前例がないので常に手探りです。時間もかかる。遠回りもする。設備も一から作る必要があり、調べることばかり。うまくいかなくても「〝失敗ではない〞〝その方法ではないよ〞と新たな道を指し示してくれている」と、前向きに考えます。 「自分が何をしなければいけないか、優先順位を整理することは非常に大切だと思っています。周りの仲間から何度か、ゴルフや麻雀に誘われましたが全て断ってきました。その時間はもちろん勝負運さえも、全て作品に注ぎ込みたかったからです」 こうした姿勢の成果は、陶芸の修業開始から6年経った28歳の時の「日本伝統工芸展」入選を皮切りにした、数々の受賞歴が物語っています。 「伝統は積み重ね、変わっていくもの」と福島さんは言います。小石原焼の代名16FUKUOKA UNIVERSITY MAGAZINE January 2018■4常に新しいものを追求し新たな小石原焼の伝統を紡ぐこかんにゅう

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