〔研究者コラム〕ー「お酒をめぐる人と自然(最終回)」お酒の流通と「人」―

全5回シリーズで「お酒をめぐる人と自然」に関するコラムを紹介しています。コラムを担当するのは二宮麻里准教授(商学部)です。

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このコラムを通じて、清酒もワインも、「人」の手と努力によって造られる農産加工物であることがお分かりいただけたと思います。しかし、いくら素晴らしいお酒が造られたとしても、その価値を消費者まで伝えるためには、流通段階においてさらに「人」の手が必要です。

お酒は瓶詰されて店頭に並んでおり、消費者は通常、購入前に試飲することはできません。資金力のあるメーカーであれば、宣伝広告を広く行うことにより、大勢の消費者に商品名を覚えてもらうことができるかもしれません。しかし、清酒蔵元もワイナリーも中小零細企業がほとんどで、それほどの資金力はありません。

また、大規模小売業での販売はほとんどがセルフサービスです。消費者は、棚に並べられた商品をレジまで運んで購入します。陳列された数多くの商品の中で、品質の良さをアピールすることは容易ではありません。こだわりの原料を使い丹精込めてお酒を生産する造り手は、消費者に伝えたいことがあったとしても、セルフサービスによる販売では限りがあります。

そのような中、商品の販売を通じて作り手と消費者をつなぐ努力をしている酒販店があります。例えば、福岡大学経済学部卒業生である轟木渡さんが経営している「とどろき酒店」(福岡市博多区三筑)。日本全国はもちろん、フランス、イタリアなど海外を飛び回り、時には現地で酒造りの手伝いをして、「これは」と思う造り手を見つけ、お客さんに紹介しています。現状の酒造りを変革させようとする蔵元を見つければ、酒造りに意見を述べるとともに、惜しみなく支援をします。

轟木さんは、「造る人が良ければ、お酒はどんどん良くなっていく」と言い、造り手と長期にわたって取引し、信頼関係を築くことを重視しています。消費者に対しては、イベントを毎週のように開催し、音楽や器、パンなどとも組み合わせた新しいお酒の楽しみ方を提案しています。

農産加工物であり嗜好品である酒類の販売は、造る人、販売する人、消費する人を緊密につなぐ形が求められるのでしょう。取引規模は小さくとも、長期的で、グローバルな広がりをもった「小さな流通」です。流通とは、「消費者が商品を消費して終わり」というような一方向の商品の流れを意味するのではなく、商品を通じた人と人とのつながりや循環を含めた概念であるべきだと感じています。大量生産や大量販売とは対極にある、こうした「小さな流通」について、今後、研究を深めていきたいと考えています。

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写真:「とどろき酒店」で開催された、萩の陶芸家・濱中史郎氏の作品展

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写真:轟木渡さん(左)と山梨県四恩醸造栽培醸造家の小林剛人さん(右) コップで気軽にワインを飲む「コップの会」にて

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