〔研究者コラム〕ー「磁石と省エネルギー(最終回)」スピントロニクス--

全6回シリーズで紹介してきた「磁力と省エネルギー」に関するコラムですが、今回が最終回となります。

紹介するのは、理学部物理科学科の眞砂卓史准教授で、研究分野は「物性(スピントロニクス)」です。

眞砂准教授のプロフィールや研究情報等はこちらからご覧ください。

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【最終回 「スピントロニクス」】

磁気の性質はすべて「スピン」が関わっています。地球が太陽の周りを回っているように、電子は原子核の周りを回っています。そして、地球の自転に相当するのが電子のスピンなのですが、そのスピン(≒自転)に右回りと左回りの2種類があるようなイメージです(これをアップスピンとダウンスピンと言います)。

物質の中には電子が多数ありますが、通常アップスピンとダウンスピンの数は同じで、互いの性質は打ち消されています。それに対して、スピンの数が偏った状態になっている材料が磁石(磁性体)です。磁石から流れ出る電流は、電子のスピン数が偏っているので、スピン偏極電流(スピン流)と呼ばれます。

磁石から銅のような普通の金属に電流を流し込んだ場合、長いものだと1 マイクロメートル程度(髪の毛の太さの約100分の1)まではスピンの偏りを保持したまま流し込むことができます。その後、別の磁石に流れ込むときに、磁石のスピンの向きと同じかどうかで、流れやすさが変わります。これが「巨大磁気抵抗効果」と呼ばれる現象です。金属の代わりに絶縁体を使うと、第4回で紹介した「トンネル磁気抵抗効果」となります。これらの効果を利用した磁気ヘッドの開発により、HDDの容量は飛躍的に向上しました。

このように、スピンの流れを制御して新たなデバイスを創出していこうという分野は、「スピン」と「エレクトロニクス」を合わせて「スピントロニクス」と呼ばれています(図)。私たちの研究室では、高周波を用いたスピン流の生成や、スピンの傾きが伝搬する「スピン波スピン流」の研究にも取り組んでいます。スピン流は省エネルギー情報伝達手段と位置付けられており、国内外の研究機関で次々と新たな提案・実験が進んでいます。

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【図】スピントロニクスの位置付け

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