「手書き」の良さを未来へ
全ては「人の和」から始まる

新卒採用を担う採用課長として
多様な個性を持った学生と会う

多彩な筆記具を手に取りながら、小川さんが話し始めます。「この『サラサクリップ』は、ジェルインクボールペンのトップセラー商品。面接で会う学生さんも必ず1本は持っています」「これは『デルガード』。世界初の、どんなに力を込めても芯が折れないシャープペンシルで、開発に5年を費やした自信作です」。慈しむように商品の特長を説明する声から、穏やかで懐の深い人柄がうかがえます。ゼブラ株式会社は1897年創業の筆記具メーカー。120年の長きにわたって各種筆記具を世に送り続け、人々の日常に欠かせない「書く」という営みを支えています。近年では海外での事業展開も進み、シマウマをかたどったロゴマークで知られるゼブラブランドのペンは、世界100カ国以上で使われています。小川さんは1999年、同社に新卒入社。営業の最前線で経験を積んだ後、営業企画や人事全般の業務を経て、現在は採用課長として新卒採用と社員の海外語学留学管理を担当しています。「採用職種は営業から研究開発まで多岐にわたり、全学部全学科の学生に門戸を開いています。毎年、採用活動がスタートする時期には、今年はどんな学生に会えるだろうと、胸が躍ります」と、小川さんはカラフルなマーカーを持ったまま頬を緩め、こう続けます。

「ゼブラは『人の和』を企業バリューに掲げる会社。社名はサバンナに群生するシマウマに由来します。集団行動でライオンなどの外敵から身を守るシマウマのように、みんなで助け合って成長しよう。そんな創業者の思いが、今もゼブラの社風に生きています。新卒採用においても、ゼブラの『人の魅力』を入社の決め手に挙げる学生が目立ちます。17年前の私もそうでした」。厚生労働省の統計によると、大学新卒者の入社3年後の離職率は30%に達しますが、「ゼブラでは、ほぼゼロです」と、鍛え上げた胸を張る小川さん。人の和を重んじるその信念は、ソフトテニス部の部活に没頭した大学時代に培われました。

市場に流通するゼブラ製品は約200アイテム。「その大半が消費者の要望を実現したものです。お客さまの声は毎日、全社員が社内メールで共有しています」と小川さん

部員たちと真剣に向き合い
深い信頼関係を築き上げた

中学の部活で出合ったソフトテニスに魅了され、東福岡高校では県大会優勝まで上り詰めた小川さん。さらなる高みを目指そうと、全国レベルの強豪校として名をはせていた福岡大学に進学します。ソフトテニスの個人戦は二人一組のダブルスが基本。後衛がラリーを重ねながらゲームを組み立て、前衛がチャンスボールを狙ってポイントを重ねるスタイルです。中学時代から前衛を担った小川さんにソフトテニスの魅力を尋ねると「頭脳プレーですね」と、明快な答えが返ってきました。「ゲーム展開を先の先まで読む一方で、ワンプレーごとに瞬時にゲームプランを立て直していく。自分の頭をフル回転させて試合を有利に進める醍醐味だいごみに魅せられました」。1年次から試合に出場した小川さんは、普通なら何本もラリーを続けて仕掛ける場面で1本目からポイントを取りに行くなど、 大学3年次、広島で行われた第51回国民体育大会秋季大会でのスナップ。後列右端が小川さんセオリーにとらわれないプレースタイルを磨き、相手校の選手に「小川のプレーは予測できない」と言わしめるまでに成長。2年次の全国王座決定戦で団体3位に食い込んだのをはじめ、全日本学生ランキング9位、西日本インカレでシングルス3位、九州インカレでは団体戦、ダブルス、シングルスで優勝するなど、輝かしい戦績を残しました。

大学3年次、広島で行われた第51回国民体育大会秋季大会でのスナップ。後列右端が小川さん

2年次から副主将、3年次からは主将として後輩の育成にも力を注ぎました。副主将時代には、上級生から1年次生に向けた叱責しっせきを一身に受けたことも。主将時代は厳しい指導を貫きながらも、部員の意思を最大限に尊重。指導する際、無理やり押さえ付けるような態度は決して取らないよう心掛けたと言います。「昼間どんなに厳しく接しても、『食事に行こう』と一声掛ければ、みんなついてきてくれました」と懐かしそうに振り返り、確信を込めてこう話します。「部員間で深い信頼関係を築けたことが、試合の結果以上に大きな財産になっています」。

授業、部活、アルバイト一切手を抜かず完全燃焼

全国トップレベルを視野に入れた部活は、実に過酷です。正月や夏のインカレ後の短いオフ期間を除き、来る日も来る日も、夜8時近くまで猛練習。早朝のコート整備を受け持つ1年次生はとりわけハードで、まさに息もつけない毎日です。それでも小川さんは一貫して、絶対に授業を休まないことを自らに課していたそうです。「学費を出してくれている両親に申し訳ない、その一心でした。副主将になってからは、後輩に手本を示す意図も加わりました。自分が怠けているくせに、『授業に出なさい』とは言えません」と、その真意を明かします。また授業や部活と並行して、入学直後から始めたファストフード店でのアルバイトは、週3回の深夜勤務にもかかわらず全力で取り組み、卒業まで継続。アルバイト先ではチーフの職責を任され、卒業時には「新たに出店するフランチャイズ店の店長にならないか」と打診を受けるほどの信頼を得ました。授業、部活、そしてアルバイト。どれ一つとして手を抜かず、ストイックなまでに自分を追い込む原動力は何だったのでしょう。小川さんは言います。「何事も途中でやめたら、それまでに積み上げた努力は何だったのかということになる。だから私は、一度始めたことは途中で投げ出さず、納得いくまで追求したいと思うのです」。その真っすぐな信念は、創業以来ずっと愚直なまでに筆記具専業を守り続けるゼブラの企業姿勢にも、どこか重なります。小川さんは真っすぐ前を見据えて、こう付け加えます。「福大では納得いくまで完全燃焼できたと、自信を持って言えます。自分の学生生活に、悔いはありません」。

一度始めたことは
途中で投げ出さず
納得いくまで
追求する

社員間だけでなく、取引先や消費者との結び付きも重視

やがて就職活動の時期。小川さんは「両親が喜んでくれる就職」を第一条件に志望業界を絞り、人々の生活に溶け込んだ身近な商品を扱うメーカーに照準を定めます。そのうちの1社がゼブラ。会社説明会に参加し、面接に進んだ段階で、その後に予定されていた他社の選考を全て断ったと言います。「採用担当の皆さんの人柄に魅かれたのです」と、小川さんは満面の笑み。面接の控室で軽く声を掛けて緊張をほぐしてくれたり、面接では『友人とよく食事に行きますか』といった質問を織り交ぜて、話しやすい雰囲気にしてくれました。そんな皆さんの姿に、「評価する前に、人として通じ合いたいという姿勢が感じられて。ここしかないと思いました」と話します。

入社早々、印象的な出会いが待っていました。配属された大阪支店の支店長をはじめ、福大の先輩が何人も在籍し、かわいい後輩をもろ手を挙げて歓迎してくれたのです。小川さんは「例えば社内で、つい博多弁が出ても大丈夫。小さなことですが、おかげですぐ職場に溶け込むことができました」と話し、これは私に限ったことではありませんが、と前置きしながら、続けます。「営業活動から戻ると、支店長が毎日のように『今日はいいことあったか』と声を掛けてくれました。後で分かったのですが、私が報告した営業先と商談内容に合わせて先方に『今後とも小川をよろしくお願いします』とフォローの電話を入れてくれていたのです」。その後、大手の販売代理店や量販店を担当するようになってからも、ここぞという場面では、その時々の上司や仲間が助けてくれたとか。「長年のお付き合いを通じて、取引先の多くと、お互いに無理が言い合える信頼関係を築いています。ゼブラが掲げる『人の和』とは、社員間はもちろん、取引先やエンドユーザーとの結び付きを大切にする姿勢。学生時代から仲間とのつながりを大切にしてきた私には、厳しい社会であっても、自然に振る舞える環境です」。

大切なのは、
気配り目配り心配り
相手目線に徹し、
信頼を深めていく。

小川さんの指揮の下、完璧なチームワークで新卒採用に取り組む採用課の皆さん。創業者・石川徳松翁の銅像に見守られて

互いの信頼関係を起点に
温かな「人の和」を広げていく

採用課のメンバーは、小川さんを含めて4人。メンバーには日ごろから「気配り、目配り、心配りを大切に」と話しているそうです。「何事も相手目線から発想すれば、今取るべき行動が分かり、その実践を重ねることで、信頼関係が深まります。採用活動においては、自分本位、会社本位にならず、自分が学生だったらどこに不安を感じるかと考えて行動する、そんな姿勢を徹底しています」。その一環として、会社説明会では会社の強みだけでなく、経営上の課題やウイークポイントも含めて、包み隠さず伝えているとのこと。こうした真摯しんしな姿勢も、多くの学生の目に新鮮に映り、信頼を寄せる要素となっているのでしょう。

課員全員で気配り、目配り、心配りを心掛けた2017年度の新卒採用活動も、すでに完了。「おかげさまで、今年も素晴らしい人材を採用できました」と、小川さんは満足そうに話します。「面接を重ね、社員と何度も接するうちに、ゼブラを好きになってくれたと確信できる学生ばかりです。入社を前に、内定者同士の交流も広がっています。11月の内定式の後にも、みんなで文具カフェに立ち寄ったり、量販店の店頭でゼブラのペンを試し書きしている写真が、社内の内定者向け掲示板にアップされていました」と話す小川さんの表情に、また一段と大きな笑顔が広がりました。最後に、就職活動に臨む福大生へのアドバイスをお願いすると、「ゼブラもそうですが、世の企業の多くが福大生の前向きな明るさ、コミュニケーション力を高く評価しています。無理して背伸びせず、等身大の自分で勝負してください」と、この上なく頼もしいメッセージを頂きました。

ゼブラでは「相手目線」が鉄則。学生と接するときは学生の目線で考え、不安の解消とゼブラへのより深い理解と共感を促す

福岡大学学園通信 No.56
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