福岡大学学園通信 No58
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AI社会に何を身に付けるべきか07FUKUOKA UNIVERSITY MAGAZINE June 2017特 集特 集特 集現状に不便さを感じる気持ちを持つことが重要特 集鶴田 技術面とは別に、社会の仕組みが大きく変わることも予想されます。今のAIが語られる背景には「IоT」や「ビッグデータ※」と呼ばれているものがありますが、そのデータの収集や利用の方法を巡っては議論を呼びそうです。分かりやすい例がプライバシーの問題です。ネット上のさまざまなサービスを利用すると自分のデータが知らないうちに活用される可能性があり、それが法律上の問題などは生じないのか、倫理的に許されるのか、技術者だけではなく、いろいろな方と考えていく必要があると思います。また、AIを搭載したロボットが個性や感情を持った時、「ロボットと結婚する」という人も出てくるかもしれない。その時に、社会としてどのように対応し、法律をどのように整備するか。他にも、AIは人間が対応できない程のものすごいスピードで情報を処理していますから、株取引をAIに任せた時に、投機的なことをやりだすと、それこそ一つの国が潰れることも起きかねません。何らかの規制がないと、あっという間に世界中でとんでもないことが起きてしまう懸念があります。グローバル化、IT化が進んだ時代は、誰か一人が作ったものが世界を変えていく可能性があります。だからこそ、面白いということだけで開発を進めていいのかを考える必要があるでしょう。AIの開発に携わる人は多岐にわたる分野の人の意見を聞きながら、必要最低限のリテラシーや倫理観を身に付けておくべきで、エンジニアがやろうとすることに、再考を促したり、ストップをかけたりする人の存在も必要だと思います。大坪 AIを活用する人材を育成するためには、誰もがプログラミングを学ぶ必要が出てくるのでしょうか。鶴田 技術者には当然必要ですが、全員が開発者になる必要はありません。むしろ、現状に不便さを感じる気持ちを持つことが重要で、それをAIで解決できないのかという発想につなげることが大切だと思います。ただ、多少は工学的なセンスやAI開発に関しての最低限のリテラシーや倫理観は必要になってきます。家を建てる時に内装工事や電気工事の人も、大工さんほどではなくても、家づくりの基本を知らなければ自分の仕事もできないのと同じことです。森田 以前、他大学の産学連携事業で、ある企業の菓子が売れないので新しい商品を作りたいという要望があり、学生の視点で企画を出したことがあります。学生にその商品のダメなところを言ってもらうとたくさん出ました。しかし、『もっとこうしたらいい』という意見は出てきませんでした。好きなこと、興味のあることでないと、もっとこうしたら良くなる、という視点は出づらいことが分かりました。今の世の中は「役に立たないことはやめて、役に立つことを教え込むべきだ」という考え方がありますが、好きなことを深くやるということは、回りまわってAIを活用する上で役立つのではないかと思っています。例えば、理系の人たちは状況を説明する時は「条件」で、文系の人たちは「ストーリー」で表現する傾向があります。「ストーリーを描く」ことはエンジニアやAIが苦手とするところです。プロジェクトの概要や意義をチーム内でシナリオとして共有できると、理解を深めることができます。AIを取りまく倫理的・法的問題AIが分析のベースとして収集する情報(ビッグデータ)のうち個人情報を取得・利用(例)作業効率化を目的としたAIによる従業員の情報収集(動画、端末装着)プライバシー、人格権の侵害への懸念AIを搭載したロボット、マシンなどによる事故や過失(例)自動運転下での交通事故、産業用ロボットによる人身事故責任の所在はどこにあるのか?AIが制作した作品(例)音楽、小説、俳句、映像など著作権は誰に帰属するのか?※ビッグデータ:ウェブサイト、GPS、SNS、顧客管理データなどから収集した多量多種でリアルタイム性を持つ膨大なデータの集積。情報通信技術の進展により、生成・収集・蓄積・分析が可能になり、利用者のニーズに応じたサービスの提供、業務の効率化などが期待されている

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