福岡大学学園通信 No58
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●AIの普及は、商品やサービスの開発にどのような影響を与えるのでしょうか。森田 ある企業の方から「毎日お昼ご飯を買いにコンビニへ行くサラリーマンが、混雑する12時を避けて13時に行き、商品棚を見て唯一残っている昆布のおにぎりを買う」というケースについて聞きました。データ上は「13時過ぎに昆布のおにぎりが毎日1個は売れる」ということになります。すると店では「13時に昆布のおにぎりがよく売れている」と判断して、昆布のおにぎりが13時に充実するようになる。でも実際は、昆布しか残っていないから仕方なく買っているのであって、そのデータが何を意味しているのかまでは分からない。データやAIを活用してマーケティングを行うのであれば、現場の観察力や利用者の声を聞くことが重要になります。商品開発では、データを収集する人と企画する人のコミュニケ―ションが問われてくると思います。特に企画側がどんな観点からデータを集めてほしいのか、しっかりと伝えることが良い商品の開発やサービスの提供につながっていきます。AIは膨大なデータから確率や統計を駆使して必要な情報を抽出する機能に長けて05FUKUOKA UNIVERSITY MAGAZINE June 2017特 集コンセプトの部分は人間がしっかり考えていく必要がある広がる活用の場(期待される活用例)■ 画像解析技術を使って食品や自動車部品など製造ラインにおける不具合、不良品の検出に活用工 場■ 患者のデータ、医学論文、画像など膨大な情報を解析し、最 適な治療法を提示■ 要介護者の排尿をセンサーなどのデータから予知医療・介護■ 野菜の写真をAIに学習させ、収穫物を色やつや、曲がり具合によって仕分け農 業■ 自走しながら掃除し、センサーで障害物や壁の位置を学習、効率よく動くロボット型掃除機■ 家具や間取り、人のいる位置などをセンサーで検知して冷暖房を調節するエアコン家 電■ 社員の残業時間、有給休暇取得状況、上司の言動、業務内容などの要素を分析し、心身の不調による休職者を予測組織管理■ AIを使った資産運用の助言、企業への融資可否の判断■ 銀行のコールセンター業務において、問い合わせに対する適切な回答を提示金 融■ AI技術を生かした記事作成。AP通信が企業決算記事を中心に採用、ワシントンポストがリオデジャネイロ五輪で導入マスコミ■ 3,000人の店員が6万人の眼鏡姿をランク付けしたデータを参考に、試着した眼鏡が似合うかどうかをAIが助言小売・サービス2016年11月以降、新聞各紙で紹介された事例より抜粋特 集(図1)人工知能の研究分野と   産業応用との関係①情報処理の三大要素検索・収集インターネットIoT伝達・蓄積SNS新サービス分析・判断AI機械学習出典:「(公財)福岡県産業・科学技術振興財団AI(人工知能)を上手に活用するために必要な基礎知識」からいますが、その前段階であるコンセプトの部分を人間がしっかり考えていく必要があります。鶴田 少し専門的な話をすると、情報処理には3つの要素があります(図1)。情報を「検索・収集」して、それを「分析・判断」し、その結果を「伝達・蓄積」するわけですが、伝達・蓄積したものが、検索・収集につながると、持続的なサイクルが生まれます。分かりやすく例えると、グルメサイトで口コミ情報を検索してある店を利用した人が、さらにその店の口コミを書くことで次に検索する人の情報になる、ということです。現状では、「検索・収集」の部分をインターネットやIоT※が担い、「分析・判断」はAIや機械学習によって行われています。「伝達・蓄積」は現在SNSが主流ですが、今後新しいサービスが出てくるでしょう。まさに森田先生が指摘された「人間が考える部分」だと思います。また、コンピューター応用のステップは3つの段階に分かれます(図2)。コンピューター支援設計やコンピューター支援診断など「コンピューター(計算機)支援」と呼ばれる技術は、情報処理の一部をコンピューターに置き換えることで効率化するものですが、これは従来の技術でも可能なレベルです。次の段階は「計算論的〇〇(神経科学、精神医学など)」で、研究内容をモデル化してコンピューターの中に取り込むことで予測・予知(シミュレーション)ができるようになる。現在はAIを活用して、この分野に取り組もうとしています。※IoT(Internet of Things):モノのインターネット。モノ(物)がインターネットにつながることで、センサーなどで収集した情報をクラウド上で分析、その結果のフィードバック(画面に表示、音声で回答、作動するなど)が可能になる

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