福岡大学学園通信 No58
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27FUKUOKA UNIVERSITY MAGAZINE June 2017田中先生は、話をしながらでも取り組める「ニコニコペース」での運動による健康増進を提唱しています。中でも、高齢者も無理なく続けられ、ウォーキングに比べてエネルギーを2倍消費する「スロージョギング」は、肥満・高血糖・高血圧など心臓血管系のりかん罹患リスクを抑制する運動療法として、注目されています。自身も学生時代は、箱根駅伝の出場を目指した陸上選手でしたが、先天性の心臓病で激しい運動は無理だと宣告され、失意の日々を送ります。しかし、ドイツの医学者であるファンアーケン氏が「心拍数130/分程度で長い時間走ると心肺機能を高める」と語っていることを知り、軽運動・長時間運動に関心を持ったのが、この分野に進むきっかけとなりました。卒業後、福岡大学で運動生理の先進的な研究をしていた進藤宗洋先生(福岡大学名誉教授)の下で、本格的な研究を始めました。進藤先生は、体が酸素を取り込む最大値であり心肺機能の高さを表す「最大酸学びと研究研究室を訪ねて運動と健康の関係性を解明し、「スロージョギング」を提唱軽い運動の継続と健康増進の関係性を50年かけて証明田中 宏暁 教授スポーツ科学部素摂取量」の研究をしていました。ファンアーケン氏が言うように「心拍数130/分」に相当する「最大酸素摂取量の50%での運動」を続けると、本当にその最大値は上がるのか、進藤先生と共に実験を繰り返しました。その仮説を実験で証明できたのが1970年代後半。研究を続けるうちに、最大酸素摂取量50%による軽強度・長時間の運動療法が心臓血管系の疾患の抑制や予防に効果があることも分かってきました。国際高血圧学会の会長を務めた荒川規矩男氏(福岡大学名誉教授)など、その分野での第一人者といわれる医学者と、そのメカニズムや根拠について研究を続け、エビデンス(科学的根拠)を重ねて説明してきた結果、1990年から2000年代にかけて国際的にも認められるようになりました。昨今、その増加が社会問題になっているうつ病や認知症の予防にも、この運動療法が効果的で、そのメカニズム解明が今後のテーマだという田中先生。50年にわたる研究の集大成として、その取り組みに期待が寄せられます。

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